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逢瀬日記

ご主人様との出会いから今迄。 後天性被虐趣味なわたしの手記。

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『鍵』

あの鍵はもうどこかへやってしまったか。

あのころ、あの鍵を大切にしていた。
手のひらの中央に慎み深く収まるくらいの、
小さな銀色の鍵。

私はいつもそれを肌身離さず持っていた。
私の持ちもののなかで、
何よりも大切にしていたかもしれない。

寝る時もすぐそばにあったし、
入浴のときは、細いチェーンに通して、
首にかけていた。

可愛らしい鍵だった。
どんなところへも、
一緒に持って行った。
その鍵と、たくさんの時間をともに過ごし、
たくさんの景色を一緒に見たと思う。
錠と一緒になるとき、
悦びに震える様に
かちりと
綺麗な音を立てた。

その鍵を持つのは
とても誇らしいことだったし、
ずっと、大切にしていくと思っていた。
今でも、
あの金属の冷たい感触、
繊細な輪郭、
ありありと想い浮かべることができる。
その鍵に触れる時、
愛しさ、悦び、いろいろな温かい感情を持つことが出来た。
もう二度とあんな鍵を持つことはないのかもしれない。

鍵・・・。

あの頃の、
私をご主人様と呼んでいた女の細く白い首に懸けた、
環に懸る錠の。








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