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逢瀬日記

ご主人様との出会いから今迄。 後天性被虐趣味なわたしの手記。

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逢瀬日記36(1)

だめだ。
心の準備が出来ない。

もう、
お澄まし顔で、従順なだけでは居られない気がします。

私は
よろこんで、
悦びのための道具になりたいと想う。

きっと、その存在を視界に認めたら、
はじめはその背を、
緊張感と羞恥の気持ちを従えて見つめ、
迷わずに付いていくに違いない。
そして、
2人の空間では、
その眼に射抜かれることを望みつつも、
おそれによって、
伏し目がちに床を見つめるに違いない。
それから、自ら望んで供物になる・・・。

ああ・・・。
本当にそうか・・・。
どうなるのか・・・、分からない。

ふわふわした気持ちの私を前に、
不意に着信した携帯は、
行くべき場所の詳細を伝えます。

身体にフィットした、キャメル色のブラウスと、
マスタード色のミニのプリーツスカートを、
夜風に揺らしながら歩きます。
19℃のカーキ色の網タイツで締め付けた脚を忙しく働かせて。
本当はいつも走りたくなる。
ほんの数秒でも、
ご主人様の指定した「そこ」に居たくて。
はやく、はやく・・・。

指定の場所で少し待ち、
ご主人様の姿を認めます。
予感と寸分違わぬ様相で、
私は緊張感や羞恥の気持ちで満たされます。
いつも一回きりのような気持ちで、
その日お逢いするご主人様が私の初めてで・・・。

ご主人様は、ネットカフェに私を連れてチェックインします。
私に身体をマッサージさせながら、
数冊の冊子を手に取り、
ゆっくりとご主人様の時間を過ごされました。
ひとこともないままに、静かに捲れていく紙の音。
私は無言のままでご主人様とおなじ空間に居る手触りを慈しみます。

ご主人様が席を立ったとき、
私は、こっそり、
ハンガーに掛けたご主人様のジャケットに鼻を近づけました。
ご主人様の香り。
お逢いしていないと、
思い出すのが難しかったりするのに、
匂ったとたん、
懐かしさと、安心と、欲情を覚える香り。

私が調香師なら、なんとかして、
この香りを創ろうとするだろうと思います。
そして夜毎、包まれて眠るでしょう。

戻って来られる気配を感じて、
お澄まし顔に戻ります。
狭いブースのなかで、
再び、冊子に目を落とされるご主人様の足を、
私はもみほぐし始めます。
一日中頑張ってご主人様を支えた足。
指でご主人様をもみほぐしていくのは、
とてもうれしいことでした。
少しでも、リラックス出来る時間になることを望みました。
ご主人様の綺麗な爪のかたちを見つめます。
足のかたちを、こんなに愛しく思うお相手も
そう、いないように思います。
ご主人様は、両足へのマッサージが終わると、
私をその両脚のあいだに、寝そべらせてくださいました。








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