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逢瀬日記

ご主人様との出会いから今迄。 後天性被虐趣味なわたしの手記。

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『放課後の蝶』

あの頃、放課後の校舎は、僕たちの遊び場だった。

僕たちのあいだで流行っていたのは、
かくれんぼと鬼ごっこを足したようなゲームだった。
隠れているのが、見つかっても、
走って逃げるのに追いつかれなければ、
鬼にされるのを回避することが出来た。
見つかって捕まると、鬼になり、
全員が鬼になったところでゲーム終了だった。

勿論、校舎を走ったり、そんな風にふざけているのを、
先生や、用務員や、上級生に見られたら、
咎められるのはわかりきっていたから、
いつも、日と場所を慎重に選んで、僕らは遊んだ。
そういう秘密で行われる遊びだったから、
密告しない仲間を慎重に選んで興じていた。
結構、知能的だったのだ。

その日は、定例の職員会議があって、
「早く帰るように」と、先生たちは促して、
足早に会議室へ向かっていた。
僕たちは、今日だねと、示し合わせて、
立ち入り禁止の旧校舎へ入った。
まだ空は明るく、校舎内は照明が灯っていなくても、
充分に見渡すことが出来た。
床の木目のひとつひとつまではっきりと見えた。
男の子が4~5人と、女の子が3~4人混じっていたように思う。

じゃんけんで鬼を決めたのだけれど、
不運なことに、僕が鬼になってしまった。
30秒、数え終えると、僕はあても無く、
校舎を見回り始めた。
結構、足は速いほうだったので、
見つけてしまいさえすれば、
面白いように鬼を増やしていくことが出来た。

逃げるほうからすれば、
終盤になればなるほど、
誰が鬼かそうでないかが解らなくなり、
そのスリルを僕たちは、たまらなく気に入っていた。

鬼が数人に増えた頃、
たまたま入った
埃っぽい図書館の本棚の合い間に、
女の子のスカートの裾が揺れるのが見えた。
よし。
息をころして、忍び寄る。

入り口に近い方からそっと近づいて、
部屋の片隅に追いやって捕まえる作戦だ。
褪色した臙脂色の絨毯に、
音がしないよう慎重に足を置く。
本棚の本と本の隙間から、向こう側を窺う。
女の子は、ひとりきりでそこにいた。
確か、今日誘われて、はじめて遊びに参加した子だった。

「見つけた」
僕の声が静寂を裂いた。

女の子は肩をびくっと震わせ、
僕のほうへ振りかえった。
その顔は、すごく怯えていて、
今にも泣きそうな位だった。
「あっ」
女の子は、それだけ発して、
その場に座り込んでしまった。
その様子は、僕のことを心底おそれているような、
可哀想に思えるほどの緊張だった。

僕は、なぜかわからないけれど、
すごく自分が興奮していると感じた。
そして、いつも見知っている筈の女の子が
全く別人のように見えた。

はやく捕まえたいと思う一方で、
ずっとこのまま、その子の怯える様子を見続けたいとも思った。
その髪に触れてみたいと思った。
そんなことは、今迄思ってもみなかったけれど、
その手を、その足首を掴みたいと思った。
触れたい。でも、触れればすべてが終わってしまうと、
この状況をもう少しあじわっていたいと、
ぼんやりと考えた。

一歩、ゆっくりと、女の子に向かって進んだ。
「ひっ」、
と、女の子は息を苦しそうに吸いこんで、
お尻を床につけたまま、
半歩後ずさるようにした。

その様子も、何か僕の奥の方にあるものを強い力で揺り動かした。
血が熱くたぎるような、
じゅっと、熱い鉄板に触ってしまったような、
痺れるような・・・何か。
目を離せなかった。
表情や、あの「あっ」、「ひっ」と漏らした声、
くの字に窮屈そうに折り曲げたスカートから覗く足。
こちらを見上げる瞳の奥の妖しいきらめき。

僕はそっと手を伸ばした。

座り込んでいるその子の、髪に触れそうで触れない、
ごくわずか、微妙な空間を赦して。

手を伸ばした僕をみつめる女の子もまた、目を離さなかった。
その瞳に浮かぶ感情は、
受容なのか、許容なのか、諦めなのか、怯えなのか、
不思議なマーブル模様のように思えた。
このままずっと見つめていたいと思った。

僕は迷った末、女の子の髪にそっと触れた。
花弁にとまって翅をすっと閉じた蝶を
指で捕まえるときのように、
そっと・・・。

突然、悲鳴と、騒がしい笑い声と、
ばたばたとせわしい足音が廊下から聞こえて、
僕が後ろを振り返った隙をみて、
女の子は再び、別の花を探す蝶のように
僕のそばを軽やかに走ってすり抜けて行った。
ひとりぼっちの図書室で、
僕の指先には、繊細でさらりとした
髪の感触だけが残っていた。

空は燃える様なオレンジから薄い紫にかわりつつあり、
聴き慣れた下校の音楽が周囲を包んでいた。

確か、その女の子は、
両親の都合でほどなく転校していったように思う。
今では顔の特徴や、どんな会話をかわしたかは
全くといっていいくらい思いだせないけれど、
時折、あの瞳のなかの妖しい光だけが思い返される。
特に今日のような、空の色の日には。

え?どうしてこんな話をしたかって?
今の君の瞳の色を見ているとね、
今でもあのときの感情が僕と共にあるような気がしてね。

もう、名前も忘れてしまったけれど、
あの女の子は、いま、どうしているのだろうか。








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